鹿児島ではなぜマハゼが少ない?分布と河川環境からその理由を考える

鹿児島の河口汽水域の砂地に生息するマハゼのイメージ
鹿児島の河口汽水域の砂地に生息するマハゼのイメージ
鹿児島の河口汽水域の砂地に生息するマハゼのイメージ
鹿児島の河口汽水域の砂地に生息するマハゼのイメージ
鹿児島の河口汽水域の砂地に生息するマハゼのイメージ
鹿児島の河口汽水域の砂地に生息するマハゼのイメージ

鹿児島の河口汽水域に生息するマハゼのイメージ。鹿児島県内でもマハゼは確認されていますが、その生息状況には地域や河川によって大きな偏りがあると考えられます。

秋になると、全国各地の河口や運河で身近な釣り物となるマハゼ。ところが鹿児島で釣りをしていると、不思議なほどその姿を見かけません。特に錦江湾沿岸では、河口や砂地でシロギスなどを狙っていてもマハゼが釣れることは少なく、「ハゼ釣り」そのものも定番の釣りとしてほとんど聞かないように感じます。

では、なぜ鹿児島ではマハゼが少ないのでしょうか。南国で水温が高いからなのか、広い干潟が少ないからなのか、それとも鹿児島特有の河川や海岸地形に理由があるのでしょうか。

調べてみると、話はそれほど単純ではありませんでした。鹿児島県内でもマハゼは確認されており、比較的多く生息しているとみられる河川がある一方、釣魚としてほとんど目立たない地域もあります。さらに全国へ目を向けると、マハゼの分布と河川環境の関係には、一つの条件だけでは説明できない興味深い特徴が見えてきます。

このページでは、鹿児島県内の河川や錦江湾での生息状況を手掛かりに、国内での分布、河口・干潟などの地形、冬季の水温、産卵生態、汽水域の環境などを比較しながら、「鹿児島ではなぜマハゼの生息密度に大きな偏りがあるのか」を考えていきます。既存の調査資料で確認できる事実と当サイトでの実釣経験を分けて整理し、最後に現時点で考えられる仮説をまとめます。

取材・編集:wiredFish編集部

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鹿児島ではマハゼをあまり見かけない?

マハゼは、河口や汽水域の砂泥底に生息し、地域によっては秋の身近な釣り物として親しまれている魚です。しかし鹿児島で釣りをしていると、シロギスやチヌ、キチヌなどはよく釣れるのに、マハゼを目にする機会は意外なほど多くありません。

当サイトでは長年、鹿児島県内、特に錦江湾沿岸の河口や港、砂浜など、数多くの釣り場を現地取材してきました。取材では実際に竿を出すことも多く、砂地や河口でシロギスを狙えば、チヌやキチヌ、スズキ、ボラ、フグ類などさまざまな魚が釣れます。しかし、その外道としてマハゼが掛かることさえほとんどありません。筆者自身が錦江湾でマハゼを釣った記憶があるのも、鹿児島市南部の喜入新港に隣接する八幡川河口での一度だけです。

また、他地域では河口や運河で楽しむ身近な釣りとして定着している「ハゼ釣り」も、錦江湾ではあまり見かけません。少なくとも筆者の釣行経験では、マハゼは「狙っていないから釣れない」というだけではなく、他の身近な魚と比べても遭遇する機会そのものが少ない魚という印象があります。

ところが、ここで注意したいのは、「錦江湾であまり見かけない」ことと「鹿児島県全体にマハゼが少ない」ことは同じではないという点です。調べてみると、鹿児島県内にもマハゼは確実に生息しており、河川によっては決して珍しい魚とはいえないことが分かってきました。

では、鹿児島のマハゼはどこにいるのでしょうか。そして、なぜ錦江湾ではこれほど存在感が薄いのでしょうか。まずは鹿児島県内で確認されているマハゼの記録から見ていきます。

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鹿児島にもマハゼはいる

錦江湾での現地取材の経験だけを見ると、鹿児島にはマハゼがほとんどいないようにも感じられます。しかし、マハゼは北海道から九州まで広く分布する魚で、国内における分布の南限は種子島とされています。つまり鹿児島県は、マハゼの分布域のほぼ南端に位置していることになります。

県内の生息記録を調べてみると、鹿児島にもマハゼは確実に分布しています。しかも、単発的な記録だけではなく、本土から種子島まで複数の河川や河口域で生息が確認されています。

【鹿児島県内のマハゼの主な分布域】

● 姶良市の干潟(錦江湾奥)
● 肝属川河口(志布志湾)
● 川内川河口(東シナ海)
● 種子島の一部河川

特に注目したいのが、大隅半島を流れて志布志湾に注ぐ肝属川です。国土交通省の資料では、河川下流部の汽水域に生息する魚としてボラ、マハゼ、ヒメハゼなどが挙げられ、これらは河川水辺の国勢調査でも確認個体数が多いとされています。少なくとも肝属川では、マハゼを「まれに見つかる魚」と考えるのは適切ではなさそうです。

薩摩半島側でも、川内川の汽水域にマハゼが生息することが国土交通省の資料に記載されています。さらに鹿児島県本土より南に位置する種子島にも確かな記録があり、鹿児島大学総合研究博物館の魚類調査では、大浦川や広田川などの河口から複数のマハゼ標本が記録されています。

つまり、鹿児島は「マハゼが分布していない地域」ではありません。では、鹿児島県にもマハゼは分布しているのに、なぜその分布や生息密度は極めて局所的なのでしょうか。

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そもそもマハゼはどんな環境に暮らす魚なのか

マハゼは、海と川が接する河口や内湾を代表する魚です。特に河口の汽水域や、その周辺に広がる砂泥底などを生活場所として利用します。

ただし、マハゼは一年中同じ場所で暮らしているわけではありません。孵化した仔魚は水中を漂いながら成長し、やがて河口などの底へ加入します。成長すると河川の汽水域を中心に生活し、ときには淡水域まで遡上する個体もみられます。そして冬の繁殖期には、砂泥底などに巣穴をつくって産卵します。

こうした生活史を考えると、マハゼの生息環境を考える際には、成魚が暮らしている場所だけでなく、産卵から仔魚期、稚魚の加入までを含めて見る必要があります。

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河口・汽水域と砂泥底を利用する

マハゼの代表的な生息場所は、河川水と海水が混じり合う河口の汽水域です。河口や内湾を中心に、砂底や泥底、砂泥底などの水底を利用して生活します。

一方で、マハゼは汽水域だけにとどまる魚ではありません。東京湾とその流入河川で採集されたマハゼの耳石を分析した研究では、河川の淡水域で採集された個体に、稚魚期に汽水・海域から淡水域へ移動した履歴が確認されています。また、汽水域で採集された個体の中にも、一時的に淡水域へ侵入した履歴を持つものがいました。

このことから、マハゼは河口や内湾を主な生息場所としながらも、淡水域から汽水域、海域まで、さまざまな塩分環境を利用できる魚であることが分かります。

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冬に巣穴を利用して産卵する

マハゼの生活史で特徴的なのが、冬の産卵です。九州で行われた研究では、産卵期はおおむね1~3月。干潟の底質中には、垂直方向に伸びるやや扁平なY字型の産卵巣が確認されています。

マハゼの卵は、海中を漂う「浮遊卵」ではありません。卵には付着糸があり、産卵巣上部の壁面に付着した状態で発生します。同研究では、約13℃の水温で孵化まで約28日を要したことが報告されています。

つまり、マハゼの産卵には成魚がその場所まで移動できることに加えて、巣穴を利用して産卵し、卵が孵化するまで発生できる底質環境が必要になります。

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孵化した仔魚は浮遊生活を送る

巣穴の中で孵化した仔魚は、親魚と同じようにすぐ河口の底で生活を始めるわけではありません。孵化後しばらくは水中を漂う浮遊仔魚として生活します。

九州での研究では、全長4.9~12.0mmの仔魚が湾内で浮遊生活を送り、その後、全長15~20mmほどに成長した稚魚が河口の底から確認されています。

つまりマハゼは、巣穴での産卵・卵発生 → 孵化後の浮遊仔魚期 → 河口などへの稚魚の加入 → 汽水域を中心とした成長というように、成長段階によって利用する環境を変えながら生活しています。

そのため、マハゼが生息できる環境を考えるときには、「汽水域がある」「砂泥底がある」という一つの条件だけを見るのではなく、産卵から仔魚の浮遊生活、稚魚の加入、その後の成長まで、それぞれの段階でどのような環境を利用しているのかを考える必要があります。

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なぜ鹿児島では局所的なのか?

鹿児島県は、マハゼの国内分布の南限となる種子島を含み、分布域の南端、いわばボーダーライン上に位置しています。そのため、鹿児島ではどこにでも同じように生息できるのではなく、マハゼにとって条件の良い河川や河口域に分布が偏っているとも考えられます。

では、その「条件」とは何なのでしょうか。鹿児島県内の生息状況や河川環境を比較しながら、いくつかの可能性について考えてみました。

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水温の違い?

マハゼは冬に繁殖する魚で、飼育実験では水温が14℃から11℃へ低下する条件で卵巣の成熟が進んだ一方、20℃では成熟が抑制される可能性が示されています。つまり、冬の水温が高すぎる環境では繁殖に不利となり、個体群の維持にも影響する可能性があります。

鹿児島はマハゼの分布南限に近いことから、水温は分布を制限する要因の一つと考えられます。しかし、各河川の水温を比較してみたところ、マハゼが生息する肝属川がマハゼの生息しない錦江湾などの河川より特別に冬の水温が低いわけではないことがわかりました。水温は南限の形成には関係していても、鹿児島県内の分布の偏りまでは説明できないようです。

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干潟や砂泥底が少ない?

マハゼは河口の汽水域や砂泥底を代表的な生息場所とするため、こうした環境の少なさも分布の偏りの影響しているとも考えられます。

鹿児島には、広大な河口干潟を持つ河川もあります。その代表が万之瀬川です。河口には南九州でも最大級の砂泥質の干潟が広がっています。いかにもマハゼの好みそうな環境ですが、これまで確認した魚類調査資料ではマハゼは主要魚種として現れていません。つまり、ほとんど生息していないか、少なくとも簡単に釣れてくるような魚ではないでようです。

大きな河口干潟があってもマハゼが生息しないケースもあり、干潟や砂泥底が少ないことが分布の偏りの原因ではなさそうです。

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内湾と外海の違い?

マハゼは内湾や河口に多い魚なので、波や潮流の穏やかな内湾の方が生息しやすいとも考えられます。

実際、錦江湾奥の姶良市の干潟ではマハゼが確認されています。しかし、マハゼが生息する川内川は東シナ海へ直接注ぐ河川です。また、分布南限となる種子島でも複数の河川で確認されています。このため、内湾か外海かという違いだけでも、鹿児島県内の分布の偏りを説明することはできません。

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河川規模の違い?

鹿児島でマハゼが確認されている川内川や肝属川は、広い流域を持つ比較的大きな河川です。そのため、河川の規模や、河口から続く汽水環境の広さが関係している可能性も考えられます。

ところが、分布南限の種子島では状況が異なります。マハゼは大浦川、広田川、阿嶽川など、本土の川内川や肝属川とは規模が大きく異なる河川でも確認されています。つまり、大きな河川でなければマハゼの個体群を維持できないわけでもありません。

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まとめ:分布の偏りを説明する決定的な要因は見つからない

ここまで検討してきた仮説を整理すると、次のようになります。

検討した条件 仮説に合致するエリア 反例・検証結果
干潟・砂泥底 姶良市の干潟 万之瀬川河口にも広大な砂泥質の干潟がある
内湾・外海 肝属川河口、姶良市の干潟 外海に面する川内川河口や種子島でも生息
河川規模 川内川、肝属川 種子島では小規模な河川でも生息
水温 分布南限を規定する要因の一つである可能性 県内では、生息する河川と目立たない河川の水温差に明確な傾向はみられない

このほかにもいくつかの仮説を立てて調査・考察しましたが、鹿児島県内でマハゼの分布が局所的になる理由を、単独で説明できる要因は見つかりませんでした。

もしかすると、特定の一つの条件で決まるのではなく、水温、河口環境、仔魚の加入など複数の要因が組み合わさることで、現在の分布の偏りが生じているのかもしれません。

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調査を通して気になった地域ごとの特徴

今回の調査では、鹿児島県内におけるマハゼの分布の偏りを説明できる決定的な要因までは見つけられませんでした。ただ、個々の生息地を調べていくと、それぞれに気になる特徴も見えてきました。ここからは結論ではなく、調査を通して感じた疑問や可能性をいくつか記しておきます。

● 万之瀬川河口 ― 条件はそろっているように見えるのに:もっとも気になるのが万之瀬川です。広大な砂泥質の河口干潟と汽水域があり、マハゼ以外のハゼ類も生息しています。それでも、これまで確認した魚類調査資料ではマハゼは主要魚種として現れません。外洋に面していることが原因とも考えましたが、同じ東シナ海へ注ぐ川内川にはマハゼが生息しています。一見すると条件がそろっている万之瀬川で、なぜマハゼが目立たないのか。今回の調査でも、この疑問に対する有力な答えは見つかりませんでした。

● 川内川河口 ― 大河川であることは有利なのか:川内川は流域の大きな河川で、河口から上流まで広い水域が続いています。こうした河川規模の大きさや、河口から連続する水域の広さが、マハゼの生息に有利に働いている可能性は考えられます。しかし、種子島では小規模な河川にもマハゼが生息しています。大河川であることは好条件の一つかもしれませんが、少なくともマハゼの分布の偏りを説明する必須条件ではなさそうです。

● 肝属川河口 ― 志布志湾の湾奥という環境:肝属川は志布志湾の湾奥へ流れ込み、河口から下流部には感潮域が形成されています。外海へ直接開いた河口とは異なり、湾奥の比較的穏やかな沿岸環境が、マハゼの生活史のどこかで有利に働いている可能性も考えられます。もちろん、外海へ直接注ぐ川内川にもマハゼは生息しているため、湾奥であることだけが理由ではありません。それでも、肝属川では河川だけでなく、その先にある志布志湾を含めて考える必要があるのかもしれません。

種子島 ― そもそも、このマハゼはどこから来たのか?

今回もっとも興味を引かれたのが種子島です。マハゼの国内分布の南限にあたりながら、大浦川、広田川、阿嶽川など複数の河川から確認されています。しかも、いずれも川内川や肝属川とは比較にならないほど小規模な河川です。

そこで気になるのが、「そもそも種子島のマハゼはどこから来たのか?」という問題です。

一つ考えられるのが、九州本土から海を渡ってきた可能性です。マハゼの卵は巣穴の壁面に付着しますが、孵化した仔魚はしばらく水中で浮遊生活を送ります。また、種子島の魚類相は南九州との共通性が高く、南九州の魚類が大隅分枝流によって種子島へ運ばれる可能性も指摘されています。

一方、まったく別の可能性もあります。大隅半島と種子島は過去に陸続きだった時期があり、種子島に生息する一部の温帯性魚類については、古い時代に成立した個体群が現在まで残った「遺存個体群」である可能性も指摘されています。

種子島のマハゼが、現在も九州本土から供給されているのか、それとも古くから島内で個体群を維持してきたのか、今回確認した資料からは判断できません。

ただ、分布南限という厳しい位置にあり、本土よりはるかに小さな河川しかない種子島で、複数の河川からマハゼが確認されていることは非常に興味深い事実です。種子島のマハゼの由来を調べることが、鹿児島でなぜマハゼの分布が局所的なのかを解く手掛かりになるのかもしれません。

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鹿児島のマハゼを探してみませんか?

今回は、「鹿児島県では、なぜマハゼの釣果例が少ないのだろう?」という素朴な疑問から、県内の分布や河川環境について調べてみました。いかがでしたか?

調査を始める前は、単純に「鹿児島にはマハゼが少ないのでは?」と考えていました。しかし実際に調べてみると、川内川や肝属川、錦江湾奥、さらに分布南限となる種子島など、局所的にはマハゼが確認されている場所があることが分かりました。

一方で、なぜ生息する場所とほとんど見られない場所に分かれるのか、その原因まではたどり着けませんでした。それでも、資料を調べ、「水温では?」「干潟の違いでは?」「河川規模では?」と仮説を立て、反例を探しながら一つずつ検証していく作業は、なかなか楽しいものでした。

皆さんもぜひ、「こんな条件が関係しているのでは?」と考えてみてください。「これは?」という仮説を思いついた方がいれば、ぜひ教えていただけるとうれしいです。

また、冒頭でも紹介したように、私は鹿児島市南部の喜入新港に隣接する八幡川河口で、実際にマハゼを釣ったことがあります。今回紹介した地域以外にも、まだ知られていない場所で細々と個体群が維持されている可能性があります。鹿児島県内でのマハゼの釣果情報も大歓迎です。

今後は、「鹿児島のメバル――錦江湾にもメバルはいる?」、「鹿児島にカレイはいないの?」といった、鹿児島の魚の分布にまつわる疑問についても調べていく予定です。興味のある方は、ぜひ当サイトをブックマークして、ときどきチェックしてみてください。

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参考文献

1.国土交通省「肝属川水系の流域及び河川の概要」

肝属川水系の地形や河川環境、生息する魚類などをまとめた資料。鹿児島県内でも、肝属川ではマハゼが比較的多く確認されていることを確認するための資料として参照しました。

● 肝属川下流部には汽水域が形成されていること
● 下流部の汽水域には、ボラ、マハゼ、ヒメハゼなどが生息していること
● ボラ、マハゼ、ヒメハゼなどは、河川水辺の国勢調査でも確認個体数が多いとされていること
● 肝属川水系の流域及び河川の概要(国土交通省)

鹿児島県内でもマハゼが比較的多く生息する河川があることを示す重要な資料です。「鹿児島は南に位置するためマハゼがほとんど生息できない」という単純な説明では捉えられないことを考えるうえでも参考になります。

2.国土交通省「川内川の自然環境」

川内川水系の自然環境や、上流から河口までの生物相を紹介した資料。薩摩半島側を流れる川内川でもマハゼが確認されていることを確認するために参照しました。

● 川内川河口部には干潟が形成されていること
● 河口から一定区間は潮汐の影響を受ける汽水域となっていること
● 汽水域には、ボラ、コノシロ、マハゼなどが生息していること
● 川内川の自然環境(国土交通省)

大隅半島の肝属川だけでなく、薩摩半島側の川内川にもマハゼが生息していることを示す資料です。鹿児島県内におけるマハゼの分布を考えるうえで参考になります。

3.鹿児島大学総合研究博物館「種子島の魚類」

鹿児島大学総合研究博物館による種子島の魚類相をまとめた資料。鹿児島県本土より南に位置する種子島にもマハゼが分布していることを、標本記録から確認するために参照しました。

● 種子島からマハゼ(Acanthogobius flavimanus)の標本が記録されていること
● 大浦川河口から多数のマハゼ標本が記録されていること
● 広田川河口や阿嶽川河口からもマハゼ標本が記録されていること
● 種子島の魚類(鹿児島大学総合研究博物館)

マハゼが鹿児島県本土だけでなく、さらに南に位置する種子島にも分布していることを示す重要な資料です。「鹿児島は南だからマハゼが少ない」という仮説を検討するうえでも重要な記録となります。

4.道津喜衛・水戸敏「マハゼの産卵習性および仔、稚魚について」

九州におけるマハゼの産卵生態と、孵化後の仔魚・稚魚の生活を調べた研究です。マハゼの産卵期や産卵巣、卵の性質、孵化後の浮遊生活から河口への加入までを確認するための資料として参照しました。

● 九州での産卵期は1~3月ごろであること
● 干潟の底質中に、やや扁平なY字型の産卵巣が形成されること
● 卵は産卵巣上部の壁面に付着し、基部に付着糸を持つこと
● 約13℃の水温では、孵化まで約28日を要すること
● 全長4.9~12.0mmの仔魚は湾内で浮遊生活を送ること
● 全長15~20mmの稚魚は河口の底から採集されていること
● マハゼの産卵習性および仔、稚魚について(J-STAGE)

マハゼは河口の砂泥底で生活するだけでなく、産卵巣での卵発生、孵化後の浮遊仔魚期、河口底への稚魚の加入という複数の生活段階を持ちます。鹿児島県内でマハゼの分布や生息密度が局所的になる理由を考えるうえで、生活史全体を検討する必要があることを示す重要な基礎資料です。

5.松﨑圭佑・加納光樹・河野博「耳石微量元素分析によって明らかにされた東京湾産マハゼの稚魚期での河川遡上履歴」

東京湾とその流入河川で採集されたマハゼの耳石Sr:Ca比を分析し、淡水域・汽水域・海域の間をどのように移動しているのかを調べた研究です。マハゼが汽水域だけに限定されず、さまざまな塩分環境を利用できることを確認するための資料として参照しました。

● 東京湾と流入河川の淡水域・汽水域で採集した61個体を調査していること
● 淡水域で採集された21個体すべてに、稚魚期に汽水・海域から淡水域へ移動した履歴が確認されたこと
● 汽水域で採集された個体の中にも、一時的に淡水域へ侵入した履歴を持つ個体が確認されたこと
● マハゼは生活史の中で、淡水域から汽水・海域までさまざまな塩分環境に対応できる、柔軟な回遊パターンを持つと考えられること
● 耳石微量元素分析によって明らかにされた東京湾産マハゼの稚魚期での河川遡上履歴(J-STAGE)

マハゼを単純に「汽水域だけに生息する魚」と捉えることが適切ではないことを示す資料です。鹿児島県内の河川を比較する際にも、汽水域の有無だけではなく、河口から淡水域・沿岸域までを含めて生息環境を考える必要があります。

6.鈴木伸洋・柵瀬信夫・杉原拓郎「マハゼの成熟に及ぼす水温の影響」

飼育実験によって、マハゼの生殖腺の成熟と水温との関係を調べた研究です。鹿児島がマハゼの分布南限に近い理由を考えるうえで、冬季の水温が繁殖に与える影響を確認するための資料として参照しました。

● 水温20℃区と、14℃から11℃へ低下する自然水温区を設けて52日間飼育していること
● 自然水温区では雌の卵巣成熟が進んだこと
● 20℃区では卵母細胞の退行がみられたこと
● マハゼの卵成熟には、低水温期を経験することが必要であると示唆されていること
● マハゼの成熟に及ぼす水温の影響(J-STAGE)

鹿児島がマハゼの分布南限に近いことを考えると、冬季の高い水温が繁殖を制限する要因の一つとなっている可能性があります。ただし、この研究だけから鹿児島における分布の偏りを水温で説明することはできません。

7.環境省「第6回自然環境保全基礎調査 干潟調査・万之瀬川」

万之瀬川河口の干潟について、その規模や地形、底質などを調査した資料です。「鹿児島でマハゼが局所的なのは、適した干潟や砂泥底が少ないからではないか」という仮説を検討するために参照しました。

● 万之瀬川河口には約150haの干潟があること
● 河口干潟と前浜干潟から構成されていること
● 底質は砂および砂泥であること
● 南九州では最大規模の河口干潟とされていること
● 河口部の川幅は約400mで、河口外側には吹上浜が続いていること
● 第6回自然環境保全基礎調査 干潟調査・万之瀬川(環境省)

万之瀬川には大規模な河口干潟と砂泥底が存在します。そのため、「大きな干潟や砂泥底があればマハゼが多く生息する」という条件だけでは、鹿児島県内の分布を説明できないことを示す重要な比較材料です。

8.国土交通省 国土技術政策総合研究所「平成17年度 河川水辺の国勢調査結果の概要[河川版]」

全国の河川で行われた河川水辺の国勢調査の結果を整理した資料です。万之瀬川で確認された魚類の構成を確認するために参照しました。

● 万之瀬川ではオイカワが全捕獲個体数の44.5%を占めていること
● モツゴ10.5%、ビリンゴ7.5%、カワムツ6.5%、ヒメハゼ4.4%が上位魚種となっていること
● マハゼは、この資料に掲載された万之瀬川の上位5魚種には含まれていないこと
● ビリンゴやヒメハゼなど、マハゼ以外のハゼ類が確認されていること
● 平成17年度 河川水辺の国勢調査結果の概要[河川版](国土交通省 国土技術政策総合研究所)

この資料だけから「万之瀬川にマハゼが生息していない」と判断することはできません。しかし、大規模な砂泥質の河口干潟を持つ万之瀬川で、マハゼが少なくとも主要魚種として現れていないことは、鹿児島における分布の偏りを考えるうえで興味深い事例です。

9.国土交通省 九州地方整備局「川内川の流域の概要」

川内川の流域面積や幹川流路延長、河口の位置などを確認するために参照した資料です。マハゼが確認されている川内川について、「河川規模の大きさが生息に有利なのではないか」という可能性を検討する際の基礎資料としました。

● 川内川の幹川流路延長は137kmであること
● 流域面積は1,600km²であること
● 九州でも規模の大きな河川であること
● 薩摩川内市から東シナ海へ直接注いでいること
● 川内川の流域の概要(国土交通省 九州地方整備局)

川内川は、河川規模の大きさや広い河口環境がマハゼの生息に有利に働いている可能性を考えさせる事例です。一方、種子島では小規模な河川にもマハゼが生息しているため、大河川であることは必須条件ではないと考えられます。

10.国土交通省 九州地方整備局「肝属川水系河川整備基本方針」

肝属川の河川規模、下流部の環境、志布志湾との位置関係などを確認するために参照した資料です。マハゼが確認されている肝属川の環境的な特徴を検討するための基礎資料としました。

● 肝属川の幹川流路延長は34kmであること
● 流域面積は485km²であること
● 肝属川が志布志湾へ注いでいること
● 下流部に感潮区間が形成されていること
● 流域の約7割をシラスが覆っていること
● 肝属川水系河川整備基本方針 関係資料(国土交通省 九州地方整備局)

肝属川は志布志湾奥へ流れ込み、下流に感潮域を持つ河川です。このような環境がマハゼにとって有利である可能性は考えられますが、東シナ海へ直接注ぐ川内川にもマハゼが生息しているため、「湾奥にあること」だけで分布を説明することはできません。

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